横手市では事業所が減っている。
では、小さな会社や店舗が減り、残った大きな企業へ雇用が集約されているのか。
一見すると、そう読める統計がある。
横手市の第2次商工業振興計画に掲載された経済指標では、事業所数が2012年5,008から2021年4,541へ減る一方、従業者数は38,381人から40,839人へ増えている。
単純に割れば、一事業所あたり従業者数は約7.7人から約9.0人へ増える。
ただし、これだけで「企業集約が進んだ」と結論づけるのは早い。
同じ計画には、別の集計条件で2021年の民営事業所を4,189、従業者を36,573人とする分析もあるからだ。
統計の対象範囲を揃えないまま数字をつなぐと、存在しない変化を作ってしまう。
まず「事業所」と「企業」を分ける
事業所数が減ったからといって、企業数が同じだけ減ったとは限らない。
一つの企業が複数店舗・工場・営業所を持つことがあるからだ。
反対に、一つの事業所だけを持つ小規模企業もある。
例えばチェーン店が2店舗を1店舗へまとめれば、事業所は一つ減るが企業は残る。
会社同士が合併して複数拠点をそのまま残せば、企業数は減っても事業所数はすぐ減らない場合がある。
地域経済の集約を見るなら、少なくとも次は別に追う必要がある。
- 企業数
- 事業所数
- 従業者数
- 一事業所あたり従業者
- 本社・支店の別
- 開業・廃業
- 合併・事業譲渡
「店が減った」と「会社が減った」は同じではない。
同じ2021年でも、4,541事業所と4,189民営事業所が出てくる
市の商工業振興計画には、経済指標の表として2021年4,541事業所、40,839従業者という数字がある。
一方、商工業の現状分析では2021年の民営事業所を4,189、従業者を36,573人としている。
この差は、少なくとも両者を同じ母集団として扱ってはいけないことを示している。
公務などを含むか、統計上の集計対象や産業範囲がどう違うかは原表まで確認する必要がある。
だからこのサイトでは、
5,008 → 4,189
のように別系列を直結しない。
経済記事で2012年5,008→2021年4,541を比較しているのは、同じ経済指標表の系列だからである。
民営事業所の変化を見る場合は、同じ民営系列だけで比較する。
民営事業所だけを見ると、2016年から2021年に事業所も従業者も減っている
市の現状分析では、民営事業所について2016年から2021年の変化も示している。
| 指標 | 2016年 | 2021年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 民営事業所 | 4,608 | 4,189 | -419 |
| 従業者 | 37,368人 | 36,573人 | -795人 |
この系列だけを見ると、事業所も従業者も減っている。
一事業所あたり従業者数は単純計算で約8.1人から約8.7人へ上がるが、上昇幅は大きくない。
事業所数の減少率の方が従業者数の減少率より大きいため、残った事業所へ相対的に雇用が寄っているようには見える。
ただし、個別企業の統合・吸収を確認していないため、これも「企業集約が原因」とは断定しない。
事業所が減っても、雇用が同じだけ消えない理由は複数ある
考えられる構造はいくつかある。
小規模事業所の退出
一人、二人で営む店や事業所が廃業し、比較的大きな事業所が残れば、事業所数は速く減る。
競合の撤退後に顧客・雇用が残存企業へ移る
需要そのものがゼロにならなければ、残った企業が商圏を広げる場合がある。
支店・店舗の統合
複数拠点を一つへまとめ、一拠点あたり人数を増やす場合がある。
市外企業の大型拠点
本社が横手にない企業でも、大きな店舗・工場・医療福祉拠点が市内で雇用することがある。
公共・医療・福祉等の大規模事業所
地域人口が減っても一定規模の雇用を維持する分野がある。
どの要因がどれだけ効いているかは、事業所規模別統計を見る必要がある。
地元就職者には「会社数が減ること」の方が効く場合がある
地域全体の従業者数が維持されても、雇用主の数が減れば転職先は減る可能性がある。
例えば同じ1,000人の雇用でも、100社に分かれている場合と10社へ集中している場合では、会社を替える選択肢が違う。
大きな事業所へ雇用が集まれば、待遇や教育制度が整う可能性もある。
一方で、その企業が撤退したときの地域への影響は大きくなる。
地元就職の安全性を見るなら、地域全体の雇用者数と同時に、
- 同職種の雇用主数
- 上位企業への雇用集中
- 市外資本か地元資本か
- 拠点閉鎖時に他社へ移れるか
を見る必要がある。
経営者には「競合が減る」ことが必ずしも悪くない
地場企業の立場では、同業他社が減ると市場が広がることがある。
人口が20%減っても競合企業が40%減れば、残った企業の一社あたり顧客数は増える可能性がある。
建設、設備、修繕、廃棄物、介護など地理的に必要なサービスでは特に起こり得る。
ただし、その場合に問題になるのは人である。
顧客を引き継げても、社員を採れなければ営業地域を広げられない。
競合減少が成長機会になるかは、
- 人員
- 車両・設備
- 管理能力
- 資格者
- 移動距離
を増やせるかで決まる。
人口減少下の企業集約では、市場より供給能力が制約になる可能性がある。
事業承継が集約の入口になる
後継者のいない会社が必ず廃業するとは限らない。
同業他社へ事業を譲る、M&Aする、従業員が引き継ぐという方法もある。
横手市も事業承継相談で第三者承継やM&Aを選択肢として案内している。
人口減少が進むと、事業所の退出の一部は単純な消滅ではなく、顧客、設備、従業員を他社へ移す集約になる可能性がある。
これを確認するには廃業件数だけでなく、事業譲渡・承継実績を追う必要がある。
2030年までは事業所規模別の変化を取る
次の経済センサス等で見るべきなのは総事業所数だけではない。
- 1〜4人
- 5〜9人
- 10〜29人
- 30〜99人
- 100人以上
など、規模別の事業所・従業者分布である。
小規模事業所だけが大きく減り、中規模以上へ従業者が移っていれば集約の根拠が強くなる。
全規模で同じように減っていれば、単純な地域経済縮小に近い。
2040年以降は「一社が何地域を支えるか」を見る
市内8地域の人口減少速度には差がある。
周辺地域で事業者が減れば、横手地域や十文字などに拠点を置く一社が複数地域を担当する形が増える可能性がある。
修繕、配送、設備保守、介護、廃棄物、除雪などでは、店舗数より一拠点の担当面積が大きくなるかもしれない。
企業集約を観測するなら、従業者数だけでなくサービスエリアも見る。
企業集約は「効率化」と「脆弱化」の両面がある
拠点をまとめれば、設備、人員、管理を効率化できる。
人手不足地域では合理的な対応になる。
一方、一社・一拠点への依存が強くなると、撤退、災害、経営不振、人手不足が起きたときの代替先が少なくなる。
地域にとっては、
- 小さい事業所を多数維持するコスト
- 少数企業へ集中するリスク
のトレードオフになる。
このサイトでは「企業集約は良い」「小規模企業を守るべき」という結論から始めない。
実際にどの分野で何社へ集約されているかを追う。
今の統計から言えるのは「集約の可能性がある」まで
同一系列の2012→2021では事業所が減り従業者が増え、民営の2016→2021では事業所の方が従業者より速く減っている。
どちらも、一事業所あたり従業者が増える方向を示している。
しかし原因が企業統合なのか、小規模廃業なのか、産業構成変化なのかまでは分からない。
したがって現時点では、横手で雇用・事業がより少ない拠点へ集約されている可能性を示す兆候はあるが、企業集約が進んでいると断定するには事業所規模別・企業別データが足りない、というところまでにする。
これは弱い結論ではない。
長期で何を観測すれば答えられるかが明確になったからだ。
Sources
yokote-commerce-industry-plan-r8-r12: 横手市「第2次横手市商工業振興計画」