人口が減る地域では、公共施設を統合した方が安い。

方向としては自然だ。

学校を減らす。処理場を減らす。集会施設を減らす。行政窓口をまとめる。

建物、設備、職員配置、光熱費、更新費を複数拠点で持つより、一つへ集約した方が合理的な場合は多い。

ただし横手市の実例を並べると、もう一つの現実が見えてくる。

施設を減らしても、住民が広い範囲に残る限り「その施設まで行くコスト」は消えない。

統合で減ったコストの一部は、送迎、交通、接続管路、移動時間、除雪、訪問サービスなどへ移る。

人口減少下の行政を考えるなら、施設数だけではなく、このコスト移転まで見た方がいい。

横手市はすでに建物をかなり減らしている

横手市の建物系公共施設は、2015年度当初の909施設から2024年度末の738施設まで減った。

171施設、18.8%の減少になる。

学校、集会施設、保育所、高齢福祉施設など複数の分類で統合、譲渡、廃止、解体が進んでいる。

「人口が減っているのに施設を何も減らしていない」という状態ではない。

問題は、その次だ。

施設を一つ減らしたとき、その施設を使っていた人の需要まで消えるとは限らない。

学校は33校から20校へ減ったが、子どもを運ぶ仕事が残る

2011年4月時点の市立学校は、小学校22校、中学校11校の計33校だった。

2026年5月時点では、小学校14校、中学校6校の計20校になっている。

校舎を13校減らしたことになる。

学校を統合すれば、複数校舎の維持管理、設備更新、教職員配置などを集約できる。

しかし統合後の学校が遠くなれば、子どもを学校へ運ばなければならない。

2026年度当初予算では、スクールバス運行管理費として266,579千円が計上されている。

さらに更新計画に基づき、マイクロバス2台、中型バス1台、ワンボックスカー1台の購入に50,859千円が計上された。

学校統合の是非をこの数字だけで評価することはできない。

統合前の13校を維持し続けた場合の費用、教育環境、人員配置、建替費などとの比較が必要だからだ。

ただし一つは確認できる。

校舎を減らせば、通学という別の公共サービスが重要になる。

住宅選びでは「学校があるか」より、統合後に通えるかを見る

子育て世帯が家を選ぶとき、現在の学校までの距離だけを見ると長期判断を誤る可能性がある。

人口が減る地域では、学校が統合される可能性がある。

そのとき重要なのは、

  • 統合先まで何kmか
  • スクールバス対象になるか
  • 冬季も安定して運行できるか
  • 部活動や放課後活動の帰宅手段はあるか
  • 保護者送迎が必要になる場面はあるか

になる。

施設の統合は行政コストの問題であると同時に、家庭の移動コストの問題でもある。

下水処理場も、止めるために管路をつなぐ

下水道でも同じ構造がある。

山内相野々処理区では、2023年10月から横手処理区への接続が始まり、山内浄化センターの稼働が停止した。

これは処理場を一つ減らした実例だ。

しかし旧処理場を単純に閉じて、サービスをやめたわけではない。

別の処理系へ汚水を送るための接続工事を行っている。

処理場を各地域で持つコスト
        ↓ 統合
大きな処理場へ処理を集約

そこまで運ぶ管路・ポンプ等のコスト

統合で処理設備の固定費を減らせる可能性がある一方、輸送するインフラは必要になる。

大森の統合事業のように、新しい統合施設そのものに施工・補修・追加調査のリスクが生じることもある。

「統合=その瞬間から安くなる」ではない。

公共施設は減っても、道路はほとんど短くなっていない

2015年度当初から2024年度末まで、横手市の建物系公共施設は18.8%減った。

一方、道路延長は約2,210kmから約2,206kmで、ほぼ変わっていない。

上水道管路や下水道管路は同期間にむしろ延びている。

これは人口減少地域のコスト構造をよく表している。

建物は一つ閉じることができる。

しかし、その先に人が住んでいる道路は簡単には消せない。

学校、病院、行政窓口、商店が中心部へ集約されても、住民が周辺部に住み続ければ、そこから中心へ移動する道路が必要になる。

雪国では「移動距離を増やす」こと自体に維持費がかかる

横手では道路があるだけでは足りない。

冬に通れる必要がある。

令和7年度除雪基本計画では、機械除雪の対象は合計1,181.8km。

除雪車は直営135台、委託260台という体制が示されている。

2026年度当初予算では、除雪機械購入事業に173,023千円が計上されている。

施設を集約して住民の移動距離が長くなるなら、その移動路を冬も維持する必要がある。

雪国では「施設を減らして車で行けばいい」という設計にも、道路維持と除雪という公共コストが乗る。

家庭側にも、

  • 自動車購入
  • 燃料
  • タイヤ
  • 車検
  • 保険
  • 雪道運転

という負担がある。

行政の建物費が減っても、社会全体のコストが同額減るとは限らない。

公共交通は、集約された生活機能へ行くための補完になる

横手市の公共交通計画では、路線バスだけでなく、循環バス、デマンド交通、代替交通、タクシーなど複数の手段を組み合わせている。

2026年時点の横手デマンド交通は、中心部のバスゾーンを除く市内全域を予約型で運行している。

こうした交通は、人口密度が低い地域で大量輸送の路線バスだけでは生活移動を支えにくくなった結果とも読める。

学校、医療、買い物、行政機能が集約されるほど、車を運転できない人にとって公共交通の重要性は増す。

つまり、施設再編と交通政策は別々に考えにくい。

統合の利益を行政会計だけで測ると、住民負担を見落とす

例えば近所の公共施設がなくなり、10km先の施設へ統合されたとする。

行政側では、

  • 建物維持費
  • 電気・暖房
  • 修繕
  • 更新
  • 職員配置

を減らせるかもしれない。

一方、住民側には、

  • 移動時間
  • ガソリン
  • 車の維持
  • 家族送迎

が増える可能性がある。

公共交通で補うなら、その運行費は再び行政側へ戻る。

したがって本当に見たいのは、

施設を一つ減らしていくら削減できたか

だけではない。

その機能へ到達するために、行政・家庭・事業者が新たに何を負担しているか

になる。

地元就職者には「通勤以外の移動時間」も生活コストになる

25歳で横手に就職するときは、自分で車を運転できる前提で生活圏を考えやすい。

しかし50年間には、

  • 子どもの通学
  • 親の通院
  • 親の介護
  • 自分の通院
  • 免許返納後の移動

が入ってくる。

施設が集約される地域では、仕事から帰った後の送迎時間まで生活コストになることがある。

「家が安い」「土地が広い」だけで住宅地を比較しない方がいい理由の一つになる。

地場企業には、統合による仕事の移動がある

施設統合は地場企業の市場も変える。

減る可能性がある仕事:

  • 小規模施設ごとの清掃
  • 小規模設備保守
  • 個別施設の修繕

増える、または残る可能性がある仕事:

  • 統合施設の改修
  • 接続工事
  • 送迎・交通
  • 大型設備保守
  • 除雪
  • 解体
  • 跡地管理
  • 訪問型サービス

人口減少を「市場が小さくなる」の一言で扱うと、この仕事の移動を見落とす。

介護では、人そのものが移動する

高齢化が進むと、すべてのサービスを大規模拠点へ集約できるわけではない。

通院できない、移動できない人には、訪問介護、訪問看護、在宅医療など提供者側が移動するサービスが必要になる。

人口密度が低くなるほど、1件あたりの移動時間が長くなる可能性がある。

施設を集約すれば効率化できる分野と、住民の場所まで行かなければ成立しない分野は分けて考える必要がある。

2050年、2070年で重要なのは「何施設残るか」だけではない

社人研推計に近い人口減少が進んだとして、将来の横手に現在と同数の公共施設が残るとは考えにくい。

しかし、施設数を当てることが目的ではない。

見るべきなのは、

  • 施設数
  • 居住分布
  • 施設までの距離
  • 送迎人数
  • 公共交通運行費
  • 道路・除雪延長
  • 訪問サービスの移動時間
  • 管路・物流距離

になる。

人口が半分になっても住民が現在と同じ面積へ薄く残れば、移動・輸送コストは人口と同じ割合では減らない。

逆に、住宅や生活機能が一定の拠点へ集まれば、インフラ維持コストを減らせる余地は大きくなる。

人口総数だけでなく、どこに住み続けるかが50年後の横手のコストを決める。

このサイトでは「統合後のコスト」を追う

施設統廃合の記事では、今後できるだけ次をセットで見る。

減る側移る・増える可能性がある側
校舎スクールバス
小規模行政施設住民移動・オンライン手続き
小規模処理場接続管路・ポンプ
小規模福祉拠点送迎・訪問
分散した公共施設公共交通・自家用車

「統合した」という行政上の完了だけで終わらせない。

その後、何にいくら使うようになったかまで観測する。

現時点の結論

横手市では、公共施設や学校、下水処理場などの統合がすでに進んでいる。

人口減少下では合理的な再編が必要になる。

ただし統合はコストを消す操作ではない。

固定施設に掛かっていたコストを減らし、移動・輸送・接続・訪問へ一部を移す操作でもある。

横手の未来を考えるなら、「何を閉じるか」だけではなく、閉じた後に人と物をどう動かすかまで設計しなければならない。

Sources

  • yokote-public-assets-plan: 横手市「財産経営推進計画」
  • yokote-public-assets-actions: 横手市「財産経営推進計画策定後の取り組み」
  • yokote-school-enrollment-r8: 横手市教育委員会「在籍数一覧、市立小中学校の学区等」
  • yokote-school-facility-plan-h23: 横手市「公立学校等施設整備計画」
  • yokote-school-bus-r8-budget: 横手市「令和8年度当初予算」
  • yokote-wastewater-concept-2016: 横手市「生活排水処理構想」
  • yokote-sewer-strategy-2023: 横手市「下水道事業経営戦略」
  • yokote-sannai-connection-2023: 横手市「令和5年12月定例会 市政方針」
  • yokote-public-transport-plan-r6-r10: 横手市「地域公共交通計画」
  • yokote-demand-and-loop-bus-r8: 横手市「横手デマンド交通・横手市循環バス」
  • yokote-snow-plan-r7: 横手市「令和7年度除雪基本計画」
  • yokote-budget-r8-snow-machines: 横手市「令和8年度予算」