横手市の人口は、公的推計では2070年に28,508人まで減る。
2020年の85,555人から約67%減る推計だ。
この数字だけを見ると、横手市内で事業をする会社の売上も同じように3分の1まで減るように見える。
しかし、人口と売上は一対一ではない。
誰に売る事業なのかで違う。
横手市の商工業振興計画も、地域外からお金を稼ぐ「基盤産業」と、地域内を主な市場として地域内でお金を循環させる「非基盤産業」を分けて分析している。
人口減少下の事業を考えるなら、まずこの違いを見る必要がある。
地元人口に近い市場は、人口減少の影響を受けやすい
典型的なのは、日常的に地域住民が使うサービスである。
例えば、
- 小売
- 飲食
- 理美容
- 一部の住宅サービス
- 地域内向け娯楽
- 地域住民向けの生活サービス
などは、顧客の多くが横手市や周辺地域の住民になる。
人口が減れば、潜在顧客数は小さくなりやすい。
横手市の第4次観光振興計画も、人口減少による地域購買力低下に伴い、事業所数、従業者数、年間販売額が減少傾向にあるとして、域外からの「外貨獲得」が重要になっていると説明している。
ここでいう外貨は外国通貨の意味ではなく、地域外から横手へ入ってくるお金を指す。
市自身が、地元住民だけを顧客にする経済では人口減少の影響を受けるという前提に立っている。
ただし、人口が30%減れば小売売上も30%減るとは限らない
地域内需要でも人口と売上は比例しない。
一人あたりの所得、年齢構成、物価、EC、周辺市町村からの流入、観光客、店舗集約などで変わるからだ。
例えば店舗数が半分になり、残った店舗へ顧客が集中すれば、一店舗あたりの売上は人口ほど減らない可能性がある。
反対に、住民が市外やECで買う割合が増えれば、人口減少以上に地元店舗の市場が縮む可能性もある。
そのため「人口×一人当たり消費」で50年後の店舗売上を単純計算することはしない。
見るべきなのは人口と同時に、
- 事業所数
- 店舗数
- 年間販売額
- 市外購買
- EC
- 周辺地域からの来訪
- 世帯数
- 年齢構成
になる。
横手には、地域人口だけでは説明できない製造業がある
横手市の商工業振興計画では、製造業を地域外からお金を稼ぐ産業として分析している。
2022年の製造品出荷額等は1,298億円で、そのうち輸送用機械器具が456億円、35.1%を占めた。
同分野は秋田県全体の輸送用機械器具製造品出荷額等の73.5%を占めるとされている。
このような製造業の売上は、横手市民が何人いるかだけでは決まらない。
完成品や部品が市外、県外の企業・市場へ流れるからだ。
横手市の人口が減っても、域外需要が維持・拡大すれば売上を維持できる可能性がある。
一方で働き手は横手や周辺から確保する必要があるため、人口減少の影響が消えるわけではない。
顧客は外にいるが、労働力は地域に依存する。
こういう会社では、市場縮小より採用制約が先に問題になる可能性がある。
「稼ぐ力」と「雇用力」は同じではない
市の経済構造分析では、農業、繊維工業、生産用機械器具製造業などを地域外から稼ぐ力が強い基盤産業として整理している。
輸送用機械器具製造業やプラスチック製品製造業も「稼ぐ力」が高い水準にある。
一方、社会保険・社会福祉・介護事業、飲食料品小売、医療、総合工事などは多くの雇用を持つ。
つまり、
- 地域外から売上を取る産業
- 地域内で多くの人を雇う産業
は完全には一致しない。
地域経済には両方必要になる。
外から稼ぐ企業だけでは、住民の生活サービスを維持できない。
地域内サービスだけでは、人口減少で購買力が弱くなったときに経済全体が縮みやすい。
この二つの組み合わせを見る必要がある。
観光は「住民ではない顧客」を連れてくる事業になる
観光は域外需要の分かりやすい例である。
横手市の観光振興計画が「外貨獲得」を明示するのも、宿泊、飲食、物販、交通などへ地域外の消費を入れられるからだ。
ただし観光客が増えれば人口減少問題が解決するわけではない。
観光は季節変動もあり、雇用条件や事業採算は別に見る必要がある。
このサイトでは「観光で地方創生」という結論にはしない。
観光は、地元人口と売上を切り離す一つの市場経路として扱う。
地場企業が域外売上を持つ方法は製造と観光だけではない
地域外へ売る方法は複数ある。
- 製造品を県外へ出荷する
- 農産物・加工品を市外へ販売する
- ECで物販する
- ソフトウェアやデジタルサービスを売る
- 建設・設備工事を他市町村で受注する
- 専門業務を県内広域で受託する
- 観光客へ販売する
- 市外企業の業務を受託する
すべての地場企業が域外売上を持てるわけではない。
介護、除雪、ごみ収集、水道保守など、現場へ行く必要があり商圏が地理に強く縛られる仕事もある。
その場合は、横手市内だけではなく県南へ商圏を広げることが域外化になる場合もある。
「全国へ売る」だけが域外売上ではない。
地域人口依存度を自社で測る
地場経営者が50年先を考えるなら、最初に自社売上を顧客所在地で分けるとよい。
例えば、
| 売上先 | 現在の比率 |
|---|---|
| 横手市内の個人 | |
| 横手市内の法人 | |
| 横手市 | |
| 秋田県・国 | |
| 県南他自治体・企業 | |
| 秋田県内その他 | |
| 県外 |
この表があれば、「横手市人口が30%減ったら売上が何%減るか」ではなく、「どの売上が横手人口へ直接依存しているか」を考えられる。
個人客中心でも、住宅修繕のように人口より住宅ストックへ依存する業種もある。
自治体向けでも、人口よりインフラ量へ依存する業種がある。
売上先と需要ドライバーを分ける必要がある。
2030年は、域外売上の有無より伸ばせる経路を確認する
2026年から2030年の4年間で市人口が急に3分の1になるわけではない。
短期では、企業にとって人口推計より現在の売上構成の方が重要だ。
見るものは次になる。
- 市内売上と市外売上
- 顧客数
- 顧客単価
- 県外受注件数
- EC比率
- 周辺自治体からの受注
- 主要取引先への依存度
域外売上がゼロでも、すぐ問題とは限らない。
地域内市場で競合撤退が進み、一社あたりの需要が増えるケースもあるからだ。
ただし地元人口への依存度を把握していないと、縮小が始まったときに原因が見えない。
2040年は、人口減少と企業数減少の速度差を見る
人口が減る一方で、企業・店舗も減る。
顧客が20%減って競合が40%減れば、残存企業の市場は必ずしも縮まない。
反対に、全国企業やECへ需要が流れれば地元企業だけが速く縮むこともある。
そのため2040年には、人口だけでなく事業所数を同時に見る。
このサイトでは既に、2016年から2021年に横手市の民営事業所が4,608から4,189へ減ったことを確認している。
今後の経済センサスでも同じ系列を追う。
2050年以降は「横手に本社を置く理由」まで問われる
2026年に25歳の人は2050年に49歳になる。
会社を経営する、継ぐ、起業する立場になっている可能性もある。
顧客が県外にいて、社員もリモートで働ける事業なら、本社を横手に置く必要性は現在より弱くなる場合もある。
逆に、土地、工場、農業、雪国技術、地域顧客、行政関係など、横手にいること自体が競争力になる事業もある。
人口減少下で会社を残す理由は「地元だから」だけでは弱い。
- 横手にある資産
- 横手にいる人材
- 横手から届く市場
- 横手のコスト構造
- 横手でしか得られない許認可・顧客・知識
のどれが事業優位になっているかを見る必要がある。
域外売上は万能ではない
域外売上が多い会社にもリスクはある。
取引先一社への依存、物流費、為替、全国競争、工場設備、人材採用など、地域内企業にはない変動を受ける。
観光なら景気、災害、感染症、交通条件に左右される。
製造業なら世界・国内のサプライチェーンに左右される。
地元人口への依存を減らす代わりに、別の市場リスクを引き受ける。
だから「域外売上を増やせば解決」という記事にはしない。
重要なのは、どの人口・市場・制度へ売上が依存しているかを可視化することだ。
人口が半分になっても、売上が半分になるとは限らない
人口推計は地域経営の重要な前提だが、企業売上の予測式ではない。
地域内人口へ強く依存する会社もあれば、横手に工場を置き全国へ売る会社もある。
行政やインフラへ依存する会社もある。
地場企業の50年を考えるなら、人口グラフの次に顧客がどこにいるかを見る。
その方が、自社の縮小リスクと拡張余地を具体的に考えられる。
現時点で分からないこと
横手市内企業全体について、市内売上と域外売上を直接分けた統計はこの記事では確認できていない。
製造品出荷額も、その全額が横手市外売上であるとは扱わない。
また観光消費額、EC売上、企業間取引の地域別内訳も別途確認が必要になる。
今後は地域経済循環分析、産業別移輸出入、観光消費、企業アンケート等を調査する。
Sources
yokote-population-vision: 横手市「横手市人口ビジョン」yokote-commerce-industry-plan-r8-r12: 横手市「第2次横手市商工業振興計画」yokote-tourism-plan-r8-r12: 横手市「第4次横手市観光振興計画」