横手の企業が人手不足になったとき、最初に考えやすいのは採用である。
求人を出す。学校へ行く。中途採用を増やす。外国人材を採る。定年後も働いてもらう。
どれも必要になる可能性がある。
しかし、地域の働き手そのものが減るなら、全企業が採用だけで人手不足を解消することはできない。
企業同士で同じ人を取り合うことになるからだ。
横手市の第2次商工業振興計画も、市内企業の人手不足を明確な課題としている。
その一方で、市は中小企業の先端設備導入について、年平均3%以上の労働生産性向上を見込む計画を認定し、設備投資支援も行っている。
人口減少下では「人を増やす」だけでなく、同じ仕事に必要な人の時間を減らすという経営課題が大きくなる。
省人化は「人をクビにする」こととは限らない
人手不足地域での省人化は、人員削減を目的にするとは限らない。
例えば5人必要な仕事を4人で回せるようにしても、余った1人を解雇するのではなく、既に足りていない別工程へ移すことができる。
むしろ人口減少下では、退職者を補充できない会社が、今いる人数で事業を維持するために省人化するケースが増える可能性がある。
省人化の対象はロボットだけではない。
- 紙からデータ入力する作業をなくす
- 電話受付をWeb予約へ移す
- 現場写真と報告書を連携する
- 在庫確認を自動化する
- 配車・訪問順を最適化する
- 遠隔監視で巡回回数を減らす
- センサーで異常時だけ現場へ行く
- 会計・請求・勤怠を連携する
- 検査・計測装置を導入する
- 機械加工を自動化する
一つ一つは小さくても、人の時間を戻すという点では同じになる。
横手市の制度も「生産性」を明示している
横手市の先端設備等導入制度では、中小企業が設備投資を行い、3年、4年または5年の計画期間で、基準年度比の労働生産性を年平均3%以上向上させることが要件になっている。
対象設備には機械装置だけでなく、測定工具・検査工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェアも含まれる。
市は別に、中小企業設備導入支援補助金も設けている。
つまり行政側も「採用できないなら我慢する」だけではなく、設備投資で一人あたりの生産性を上げることを企業支援の対象としている。
ただし、制度の認定を受けた企業が実際に人手不足をどれだけ解消したかは別途検証が必要になる。
何を自動化するかより、「人が何時間使っているか」を先に見る
AI、ロボット、IoTなどの名前から導入を始めると、投資が目的化しやすい。
人手不足への対応なら、最初に仕事を時間で分解した方がいい。
例えば8時間勤務の現場社員が、
- 移動 2時間
- 現場作業 3時間
- 記録 1時間
- 会社との連絡 30分
- 資材待ち 30分
- その他 1時間
という働き方をしているなら、現場作業をロボット化する前に移動や記録を減らした方が効果が大きい場合がある。
これは製造業でも事務でも同じになる。
「人が足りない」を、
- 作業量が多すぎる
- 移動が多すぎる
- 二重入力がある
- 待ち時間がある
- 熟練者しか判断できない
- 電話・紙に依存している
- 一人で複数拠点を回れない
まで分解する。
省人化の対象はそこから決める。
地方の現場では「移動」を削れるかが大きい
横手は面積が広く、現場系事業では顧客や設備が点在する。
建設、設備、浄化槽、廃棄物、介護、保守などでは、人が作業している時間だけでなく、現場間を移動する時間も大きい。
人口が減っても顧客が中心部へ完全に集まらなければ、少ない人数で広い地域を回る必要がある。
この場合、省人化は「1件の作業を10分短縮する」だけではなく、
- 訪問順をまとめる
- 顧客からの連絡を地図に紐づける
- 過去履歴を現場で確認する
- 不要な再訪問を減らす
- 遠隔確認できる設備を増やす
といった移動最適化まで含む。
地方のDXは、都市部と同じ事務効率化だけでは足りない。
地理的なコストを減らせるかが重要になる。
自動化しにくい仕事ほど、周辺作業を自動化する
介護、修理、除雪、現場施工など、人が物理的に行かなければ成立しない仕事は多い。
この仕事を全部AIへ置き換えることはできない。
だからといって省人化できないわけではない。
介護なら記録、シフト、請求、情報共有。
建設なら写真整理、日報、積算補助、工程共有。
設備保守なら点検履歴、部品在庫、遠隔監視。
廃棄物なら配車、ルート、受付、計量データ。
人間にしかできない作業の前後を機械化して、一人が現場に使える時間を増やす。
人口減少地域では、この方が現実的な省人化になる場合が多い。
省人化すると、必要な社員の技能も変わる
設備を導入すると人が不要になるだけではない。
設備を設定する人、維持する人、異常時に復旧する人、データを読む人が必要になる。
単純作業の比率が下がれば、残る仕事は判断、調整、保守、改善へ寄る可能性がある。
地元就職者にとっては、これは重要な変化になる。
例えば同じ工場でも、単純な機械操作だけを経験するのか、設備保全、PLC、品質管理、生産管理まで触るのかで、10年後の転職可能性は違う。
現場会社でも、紙の点検票を書く人より、現場知識とデジタルシステムの両方を理解する人の役割が大きくなる可能性がある。
「AIに仕事を取られるか」より、会社がどこを機械化し、自分が機械化後の工程で何を担当するかを見る方が具体的だ。
小さい会社ほど、巨大システムを入れる必要はない
省人化というと高額な基幹システムや産業ロボットを想像しやすい。
しかし従業員10人、20人の企業では、小さな重複作業を消す方が投資対効果が高い場合がある。
例えば、
- Excelから請求書へ手入力している
- 顧客住所を複数台帳で持っている
- 現場写真をLINE等で送り直している
- 予定変更を全員へ電話している
- 紙の日報を後で事務員が転記している
といった状態なら、ロボットより先に情報の一元化が効く可能性がある。
AI時代でも、元データが紙と口頭だけなら自動化できる範囲は狭い。
地方企業の省人化では、まず業務をデータ化することが前提になる。
2030年までは、一工程ずつ削れるかを見る
2030年までの短期では、会社全体を自動化する必要はない。
毎年一つでも、繰り返し作業を減らせればよい。
経営側は次を測る。
- 売上高/従業員
- 粗利/従業員
- 1件あたり作業時間
- 1件あたり移動時間
- 再訪率
- 紙からの転記時間
- 残業
- 採用できなかった人数
- 退職者の補充率
設備導入前後で同じ数字を比較する。
補助金を取ったことではなく、人の時間が戻ったかを成果にする。
2040年には、会社のサービス範囲そのものを変える可能性がある
人口減少が進み、社員数を維持できなければ、効率化だけでは足りない会社も出てくる。
その場合は、
- 利益の低いサービスをやめる
- 営業地域を絞る
- 同業他社と共同化する
- バックオフィスを外注する
- 拠点を統合する
- 業務を標準化して未経験者でも扱えるようにする
といった事業設計まで必要になる可能性がある。
省人化は「今の会社をそのまま小人数で再現する」だけではない。
人口減少に合わせて、何を残す会社かを決めることまで含む。
2050年以降は、採用力より「一人で持てる事業量」が重要になる
2026年に25歳の人は2050年に49歳になる。
現在の経営者や熟練者から事業を引き継ぐ年齢になっている可能性がある。
その時の会社が、10人いないと成立しないのか、5人でも成立するのかは大きい。
人口が減り、採用母集団が小さくなるほど、少人数で成立する会社の方が承継しやすくなる可能性がある。
特に地場サービスでは、「売上を最大化する会社」より「必要人数を減らして長く残る会社」という戦略もあり得る。
これは成長を諦めるという意味ではない。
人が増えない前提でも利益とサービスを維持できる構造を作るということだ。
自動化してはいけない場所もある
安全、法令、品質、人命に関わる判断を、十分な検証なしにAIへ任せることはできない。
現場作業では資格者配置が法令で必要な場合もある。
高齢者や住民との対面調整を完全に消すと、サービス品質が落ちることもある。
そのため省人化は、
- 法的に人が必要な作業
- 技術的に人が必要な作業
- 顧客が人を必要とする作業
を残し、それ以外を減らす方がよい。
人手不足だから何でも無人化する、という設計にはしない。
地元就職者は「自動化される仕事」より「自動化する側へ近いか」を見る
人口減少地域では、人手不足が長く続く可能性がある。
その環境では、自動化を避ける会社より、自動化を進められる会社の方が事業を残しやすい場合がある。
社員として見るなら、
- 改善提案ができるか
- データへ触れられるか
- 設備保全を学べるか
- 業務設計へ関われるか
- ITを単なる外注先任せにしていないか
を見る価値がある。
同じ地元就職でも、10年後に「機械で置き換えられた工程」だけを経験しているか、「機械を入れて工程を変えた経験」があるかでは可搬性が違う。
人が減るなら、人を増やす以外の答えを持つ会社が必要になる
横手の人手不足は、求人広告だけで解決する問題ではない。
若年人口が減り、既存就業者も高齢化している以上、地域全体では採用できる人数に限界がある。
採用、待遇改善、外国人材、シニア雇用と同時に、仕事そのものを減らす必要がある。
横手市が設備投資と生産性向上を支援しているのも、その方向と整合する。
50年先まで事業を残すなら、毎年「何人採るか」だけでなく、一人あたり何時間の無駄を消したかを追う会社の方が、人口減少への耐性を測りやすい。
現時点で分からないこと
横手市内企業が実際にどの程度DX・自動化を導入し、何時間の省人化効果を得ているかを示す横断統計は確認できていない。
先端設備等導入制度の認定件数や設備導入補助の実績、導入後の生産性も今後確認する必要がある。
また、省人化によって雇用者数が減るのか、欠員を補う形で使われるのかは企業ごとに異なる。
Sources
yokote-commerce-industry-plan-r8-r12: 横手市「第2次横手市商工業振興計画」yokote-advanced-equipment-support-r8: 横手市「先端設備等導入制度による支援」yokote-sme-equipment-subsidy-r8: 横手市「横手市中小企業活性化支援事業(中小企業設備導入支援補助金)」akita-labor-balance-yokote-r8-04: 秋田労働局「令和8年4月の職業別求人・求職バランスシート(ハローワーク横手)」