横手のりんご園や果樹園を、今ある場所のまま全部次世代へ残す。
行政計画を読むと、すでにそういう前提ではない。
2026年の横手市果樹産地構造改革計画では、高齢化と後継者不足で栽培戸数・栽培面積が減り、管理不良園や放任園も増えている現状を認めている。
そのうえで、山手の傾斜地など作業条件の悪い園地について、維持する園地と、労働生産性の高い農地へ移すためのゾーニングを検討するとしている。
これはかなり明確な縮退の話だ。
果樹産地を守るために、すべての園地を同じように守るのではなく、残せる場所へ人・樹・投資を寄せようとしている。
横手には1,127戸の果樹農家がいる
果樹産地構造改革計画では、2025年度末時点の果樹担い手台帳記載農家戸数を1,127戸としている。
水稲などとの複合経営や、複数の果樹を栽培する家族経営が中心とされる。
また0.5ha未満の小規模農家が50%以上を占める。
つまり横手の果樹産地は、一部の巨大法人だけで成り立っているわけではない。
小さな園地を持つ家族経営が多数存在している。
この構造で高齢化が進むと、園地を一つずつ誰へ引き継ぐかが問題になる。
果樹は田んぼより「その場にあるもの」の継承が重い
水田なら、農地を借りた新しい担い手が自分の機械で作付けする形を取りやすい。
果樹は少し違う。
園地には、
- りんご等の樹体
- 支柱
- 防除設備
- 灌水
- 作業道
- 品種構成
がすでに存在する。
農地だけでなく、何十年かけて育てた樹そのものを引き継ぐ必要がある。
計画でも「樹体・園地を含めた円滑な経営継承」を検討するとしている。
後継者が見つからないまま数年放置してから引き継ぐのでは遅い場合がある。
放任園は、所有者だけの問題で終わらない
果樹園が放置されると、単に収穫されなくなるだけではない。
市の計画は、管理不良園や放任園が病害虫の発生源となり、周囲の意欲ある果樹農家の栽培管理へ悪影響を与える可能性を明記している。
つまり、
自分の園地だから、自分が辞めた後は放っておけばいい
では済まない。
隣接園地へ病害虫が広がれば、地域の産地全体に外部不経済が出る。
空き家と似ている。
所有者が使わなくなっても、管理されない資産が周囲のコストになる。
市は「重点的に対策すべき放任園」の条件まで置いている
果樹産地構造改革計画では、重点的に対策すべき放任園の条件を具体的に挙げている。
例えば、
- 周囲に同品目の園地があり、病害虫や野生鳥獣の繁殖源になる懸念が大きい
- 管理者が75歳を超える、または身体的不調等で管理継続が難しい
- 関係機関が1年間協議しても後継管理者が見つからない
- 傾斜、狭小、積雪時の雪下ろし困難など地形的に作業性が悪い
- すでに1年以上放棄され、樹が積雪や病害虫で損傷し回復が見込めない
といったものだ。
これは将来の抽象論ではない。
「どの園地を継承し、どの園地を整理するか」を判断する必要がすでに発生している。
山手の園地から平場へ移すことまで検討している
計画では、山手傾斜地を中心に、作業条件や高齢化を理由として廃園等の遊休農地が増えているとする。
その対応として、
- 維持する園地を選ぶ
- 作業性のよい平場へ移行する
- 担い手へ集約する
- 労働生産性の高い農地へ寄せる
ためのゾーニングを検討している。
これは果樹版のコンパクトシティに近い。
人手が少なくなるなら、同じ人数で管理しやすい場所へ生産基盤を寄せる。
土地の条件そのものを選別する話になる。
雪国では傾斜地と樹体の維持がさらに重い
横手の果樹は雪の影響を強く受ける。
2020年度の記録的大雪による被害も、現在の計画で明示されている。
雪は、
- 枝折れ
- 樹体損傷
- 雪下ろし
- 園内移動
- 防除設備
へ影響する。
高齢者が傾斜地で樹の雪を管理する負担は大きい。
だから「農地面積がある」だけで継承可能性を判断できない。
同じ1haでも、平場の機械化しやすい園地と山手の小区画園地では、必要な労働量が違う。
果樹産地の将来は、農家数より「管理可能面積」で見る方がいい
1,127戸の果樹農家をそのまま維持することが目的ではない。
実際、計画上も担い手の育成と園地集約が中心になっている。
50年先を考えるなら、
- 農家戸数
- 栽培面積
- 放任園面積
- 担い手への集積面積
- 一経営体あたり面積
- 平場・傾斜地の比率
- 共同防除能力
を別々に見る必要がある。
農家数が減っても、効率の良い園地へ集約できれば産出量を維持できる可能性がある。
逆に戸数が残っていても、管理できない園地が増えれば産地は縮む。
共同防除もオペレーター不足になっている
果樹では防除作業も重要だ。
計画は、共同防除組織について、機械を共同利用してコストを下げるだけでなく、防除が難しい生産者の作業を受託する「産地維持に欠かせない」組織と位置付けている。
一方、その共同防除組織でも高齢化によるオペレーター不足と防除機の老朽化が課題として顕在化している。
除雪と同じ構造が農業にもある。
機械があっても、運転する人がいなければサービスは維持できない。
人口減少下では、各農家が全部自前で作業するより、少数の専門オペレーターが広い範囲を受託する方向が重要になる可能性がある。
労働力不足への対策には外国人材まで入っている
計画は、果樹の担い手減少と高齢化に対し、補助機具による負荷軽減だけでなく、
- 外国人材の受入体制強化
- 農福連携
- 企業経営体の育成
- 他産業との季節労働力連携
- 定年退職者の就農
まで検討対象としている。
新規就農者だけで不足人数を埋める発想ではない。
農業という産業の働き方自体を組み替える必要があるということだ。
地元就職者には、農業が「個人事業主だけの世界」ではなくなる可能性がある
農地・園地が集約され、法人化や作業受託が進めば、農業に関わる仕事は雇用型へ寄っていく。
- 園地管理
- 防除オペレーター
- 農業機械
- 選果
- 加工
- 品質管理
- 販売
- 物流
- IT
など、会社員として関わる余地も広がる。
横手で就職を考える人は「農家になる気はないから農業は関係ない」と切り離さない方がいい。
地域の基幹産業が再編されると、周辺サービス業の仕事も変わる。
地場経営者には「廃園」が市場になる分野もある
園地を維持しないと決めた場合にも作業は発生する。
2026〜2028年度には、横手市が果樹放任園の樹木伐採、伐根、撤去、整地費用を支援する制度も置いている。
縮退には、
- 伐採
- 伐根
- 運搬
- 廃棄
- 整地
- 次の土地利用
という仕事がある。
住宅の空き家解体と同じで、「利用をやめる」こと自体にもコストと事業需要が生まれる。
2050年には、果樹産地の地図そのものが変わっている可能性がある
現在の計画は2030年度までの具体的な改革計画だ。
2050年の園地分布を予測するものではない。
ただし、現時点ですでに平場への移行やゾーニングを検討している以上、現在と同じ場所に同じ果樹園が残り続けることを前提にはできない。
将来は、
- 生産性の高い園地へ集約
- 管理困難園の撤退
- 加工向けの省力園地
- 共同防除・作業受託
がより進んでいる可能性がある。
果樹の未来は「りんご農家が何戸残るか」だけではなく、どの土地を産地として残すかの問題になる。
このサイトで追う数字
- 果樹農家戸数
- 果樹栽培面積
- 年齢構成
- 担い手数
- 園地集積面積
- 規模拡大農家
- 放任園・廃園
- 伐採・撤去支援件数
- 共同防除組織とオペレーター数
- 品目別生産量
- 平場への移行事例
数年後に現在の計画がどこまで実行されたかを追えば、「ゾーニングを検討した」で終わったのか、本当に産地の地図が変わったのかを確認できる。
現時点の結論
横手の果樹産地は、すべての園地を現在の位置のまま守る段階ではない。
高齢化、後継者不足、雪、病害虫、傾斜地の作業負担を前提に、残す園地を担い手へ集約し、作業性の良い場所へ生産を寄せ、継承できない園地は放任させず整理する方向が行政計画に明記されている。
人口減少社会で必要なのは「全部残す」という精神論ではなく、
何を残し、どこへ集め、何を安全にやめるか
を決めることになる。
果樹園は、その現実がすでに見えている分野の一つだ。
Sources
yokote-fruit-production-plan-r8: 横手市「果樹産地構造改革計画」yokote-agriculture-plan-r8-r17: 横手市「第3次農業振興計画」yokote-mountain-farmland-support-r8: 横手市「中山間地域の農地維持を支援します」yokote-farmland-optimization-guideline-r8: 横手市農業委員会「農地等の利用の最適化の推進に関する指針」