25歳で横手に就職すると、自家用車があれば公共交通をほとんど使わずに暮らせる人もいる。
しかし50年後の69歳でも同じように運転できるとは限らない。
横手市への移住や定住を考えるなら、今の通勤だけでなく、運転できなくなった後の移動まで見る必要がある。
横手市の地域公共交通計画は、この問題をかなり現実的に書いている。
2022年度の民間路線バス年間利用者数は347,443人。2028年度の目標値は211,997人で、現状より少ない。
市はこれを利用者減少を肯定する目標として置いているわけではない。計画本文では、利用者数と収支率の減少傾向が続くと見込み、減少幅を小さくすることを目標にすると説明している。
2028年の目標値が2022年実績より低い
2026年6月改訂の横手市地域公共交通計画では、主な数値目標を次のように置いている。
| 指標 | 2022年度 | 2028年度目標 |
|---|---|---|
| 民間路線バス年間利用者数 | 347,443人 | 211,997人 |
| 循環バス年間利用者数 | 41,505人 | 30,288人 |
| デマンド交通年間利用者数 | 34,874人 | 30,647人 |
| 民間路線バス収支率 | 32.6% | 22.3% |
普通の事業計画なら、目標値は現在値より高い方が前向きに見える。
しかし人口減少地域の公共交通では、その発想だけでは計画にならない。
市は、これまで利用者数が減少し、減収や燃料費高騰などで民間路線バスの収支率も低下していると説明する。その上で、今後も減少が続くことを見込み、施策によって減少速度を緩める目標を置いている。
これは横手市の将来を見る上で重要な材料だ。
行政自身が、短期的にも「現状維持」を自明な前提にしていない。
横手市は692.80平方kmある
横手市地域公共交通計画では、市域を東西約45km、南北約35km、面積692.80平方kmとしている。
この広さに、横手、増田、平鹿、雄物川、大森、十文字、山内、大雄などの地域が分かれている。
人口が減っても、市域そのものは小さくならない。
公共交通にとっては、少ない利用者を広い範囲でどう支えるかという問題になる。
利用者が減った路線を全部同じ便数で維持すれば費用が重くなる。一方で、便数や路線を減らせば、自家用車を使えない人の生活に直接影響する。
このトレードオフは、人口3万人前後まで減る可能性がある2070年にはさらに大きくなる。
「バスを残す」だけではなく、交通手段を組み替えている
横手市の計画は、鉄道と路線バスだけで交通を維持する構成ではない。
対象には次が含まれる。
- JR奥羽本線・北上線
- 高速バス
- 民間路線バス
- 横手市循環バス
- 横手デマンド交通
- 路線廃止代替乗合タクシー
- コミュニティバス
- 自家用有償旅客運送
- タクシー
つまり人口減少下では、一つの路線を永続的に守るというより、需要に合わせて交通モードを組み替える方向にある。
2026年度にも循環バスのルート見直し、デマンド交通の料金対応、地域内フィーダー系統の変更などが協議されている。
2026年10月には横手市循環バスが南ルート・北ルートへ再編される。
公共交通の形が変わること自体を例外と考えない方がいい。
25歳の通勤と69歳の通院は違う
地元就職を考える25歳にとって、交通手段はまず通勤の問題になる。
会社に駐車場があり、自家用車があれば成立するかもしれない。
しかし2040年に39歳、2060年に59歳、2070年に69歳になる。
その間に交通へ求めるものは変わる。
- 20代・30代: 通勤、買い物、子どもの送迎
- 40代・50代: 親の通院支援、家族内で複数台の車を維持する負担
- 60代以降: 自分自身の通院、買い物、運転継続の可否
- 運転返納後: 公共交通、家族送迎、タクシー等への依存
若い時の「車社会だから問題ない」という判断は、高齢期の移動可能性を答えていない。
移住先は駅からの距離だけでは選べない
横手市内で住宅を選ぶ場合、「横手駅まで何分か」だけでは生活交通を評価できない。
必要なのは、自分が頻繁に使う場所への到達方法だ。
- 勤務先
- スーパー
- 病院・診療所
- 学校
- 市役所・地域局
- 高齢期の医療・介護施設
さらに、自家用車を使えない場合に代替手段があるかを見る。
デマンド交通は路線バスとは違い、事前予約によって運行する乗合型交通である。自由度が高い一方、即時に好きな時刻で移動できる自家用車と同じではない。
「公共交通がある」という二択ではなく、運行方式、予約、時間、運賃、乗換えまで確認する必要がある。
地場企業には、採用範囲の問題でもある
公共交通は住民サービスだけではない。
企業にとっては、従業員がどこから通えるかに関係する。
横手市の商工業振興計画では、市外から横手市へ働きに来る人が市外へ出る人より多いことが示されている。
自家用車中心の通勤が成立している間は広い採用圏を持てるが、高校生、高齢者、免許を持たない人、外国人労働者などは同じ条件ではない。
人手不足が強くなるほど、「車を持つ人だけ採用できる職場」でよいのかは経営課題になる可能性がある。
送迎、勤務時間、拠点立地、公共交通との接続は採用条件の一部になる。
自動運転は、現時点では解決済みの話ではない
横手市の第3次総合計画には、自動運転バスなどについて事業者と連携した取組を進める方針がある。
地域公共交通計画でも、貨客混載や自動運転など技術革新による新制度導入の可能性を検討対象にしている。
ただし、これを理由に「将来は自動運転があるから大丈夫」とは書かない。
実証、導入、運行範囲、費用、積雪環境、法制度が確認できて初めて、現在の交通を代替できるか評価できる。
技術はシナリオを変える変数であって、現在の欠落を埋める架空の前提にはしない。
50年先では「路線名」ではなく移動機能を追う
2070年まで現在の路線名や運行会社が同じ形で残るかは予測できない。
そのため、このサイトでは路線の存廃そのものより、次の機能を追う。
- 地域間を移動できるか
- 中心部の病院・商業施設へ行けるか
- 運転できない人が日常生活を維持できるか
- 通勤に使える時間帯があるか
- 予約型交通がどこまでカバーするか
- 1人あたりの行政負担・利用者負担はいくらか
- 運転手を確保できているか
人口が減るほど、固定路線から予約型・小型車両・地域主体運行などへ構成が変わる可能性がある。
具体的な将来形は決め打ちせず、毎年度の協議会資料で実際の変更を追う。
現時点で分からないこと
この記事では2026年度の最新利用実績をまだ整理していない。
また、路線別の赤字額、運転手数、運転手の年齢構成、地域別の交通空白を詳細には扱っていない。
2028年度目標が低いことは「サービスをその水準まで減らす目標」という意味ではなく、利用者・収支率の減少幅を抑えるために設定された指標である。
次は協議会の年度実績、路線別収支、運転手不足、地域別交通手段を追う。
Sources
yokote-public-transport-plan-r6-r10: 横手市「横手市地域公共交通計画(令和8年6月改訂)」yokote-public-transport-council-r8: 横手市「横手市地域公共交通活性化協議会」yokote-demand-and-loop-bus-r8: 横手市「横手デマンド交通・横手市循環バス」yokote-population-vision: 横手市「横手市人口ビジョン」