横手で人口が減ると、野生動物への対応も楽になるのか。
そうとは限らない。
横手市は2026年度の獣害防止対策で、クマやイノシシなどによる農畜産物被害の増加と、住宅街などへのクマ出没を背景に、電気柵や放任果樹の伐採を重点事業としている。
一方、実際に捕獲や巡回を担う横手市鳥獣被害対策実施隊は、2014年の設置時161人から2025年1月末113人へ減った。
約30%の減少になる。
人口減少下の鳥獣対策で問題になるのは、動物の数だけではない。
山、農地、空き家周辺の管理対象が残る中で、捕獲できる人を誰が確保するかである。
実施隊は161人から113人へ減った
2025年度から2027年度の横手市鳥獣被害防止計画では、鳥獣被害対策実施隊について次のように記載している。
- 2014年4月の設置時: 161人
- 2025年1月末: 113人
実施隊は、市職員と横手連合猟友会員で構成される。
現場巡回、わなの設置、有害鳥獣の捕獲などを担う。
人数が48人減ったから鳥獣対策能力も同じ割合で落ちた、とまでは言えない。
経験、資格、出動可能時間、ICT機器、捕獲方法なども効くからだ。
ただ、市自身が現行計画でツキノワグマ、カラス類、イノシシ、ニホンジカについて「実施隊の新規隊員の確保」を取組に掲げている。
担い手確保が政策課題になっていることは明確である。
捕獲は誰でもすぐできる仕事ではない
クマやイノシシを捕獲するには、わな・銃器に関する資格、法令、安全管理、現場経験が必要になる。
特に銃器を使う捕獲は、単に人を集めれば代替できる仕事ではない。
横手市は新たに実施隊員となる人に対して、狩猟免許取得や銃等の購入費を助成している。
これは「捕獲を依頼する予算」だけではなく、捕獲できる人そのものを育てなければならない状況を示している。
2024年度の新規取得支援は数人単位だった
横手市の2024年度主要施策成果では、実施隊員確保事業として、
- 狩猟免許等取得支援: 2人
- 散弾銃等購入支援: 2人
- わな猟免許取得支援: 2人
が記録されている。
同一人物が複数支援を利用した可能性があるため、これを「6人増えた」とは読まない。
また、補助を受けた人数だけで実施隊への純増減は分からない。
既存隊員の退任もあるからだ。
それでも、担い手を一度に何十人も補充できる制度ではないことは見える。
113人という現在規模を維持するにも、新規加入と既存隊員の継続を両方見る必要がある。
ICTは捕獲人材を不要にはしない
2025年度予算では、害獣捕獲通知システムやICT捕獲機器の活用が位置付けられている。
ICTでできるのは、例えば、
- わなの作動通知
- センサーカメラによる状況把握
- 見回り回数の削減
- 捕獲タイミングの把握
などである。
これは移動時間や確認作業を減らせる。
しかし、捕獲後の対応、安全確認、銃器使用、個体処理などまで自動で終わるわけではない。
人口減少地域のDXを見るときは、機械を入れたかではなく、実施隊員一人あたりの移動・見回り・処理時間が何時間減ったかを見る方が重要になる。
捕獲だけではなく、人の生活圏へ寄せない作業も必要
現行計画では、クマ対策として、
- 食品残渣や放置農作物など誘引要因の除去
- 緩衝帯整備
- 耕作放棄地の解消
- 電気柵等の防護
- 追い払い
も位置付けている。
2026年度には、市が放任された柿・栗などの伐採費用を補助している。
ここでも必要なのは捕獲員だけではない。
土地所有者、農家、自治会、伐採業者、市職員など複数の担い手が関わる。
鳥獣被害対策は「猟師がクマを捕る仕事」だけではなく、生活圏と野生動物の境界を管理する仕事である。
農地が荒れると、管理する面積の問題につながる
横手市農業委員会は意見書の中で、鳥獣被害が営農意欲の低下、遊休農地化、さらに鳥獣の生息域拡大へつながる悪循環を問題としている。
これは農業委員会の問題認識であり、被害量を示す統計そのものではない。
ただし、農家減少の記事と鳥獣対策を別々に読まない方がいい理由になる。
農家が減り、管理されない土地が増える。
残った農家の周辺管理負担が増える。
鳥獣被害でさらに営農をやめる人が出る。
この連鎖が起きれば、担い手不足は農業生産だけでなく地域環境管理へ広がる。
防護柵も雪国では置けば終わりではない
鳥獣被害防止計画では、イノシシやニホンジカの防護柵について、豪雪地帯のため恒常的な柵の維持が困難という課題も記載されている。
横手では、一般的な鳥獣対策をそのまま導入できるとは限らない。
雪で設備が壊れる、冬前に撤去する、春に再設置する、といった追加作業が生じる可能性がある。
鳥獣対策にも横手固有の雪コストが乗る。
地元就職者にも関係する
狩猟をしない会社員には関係ないように見える。
しかし住宅地や農村部で暮らすなら、鳥獣対策は生活条件になる。
- 通勤路でのクマ出没
- 子どもの通学
- 家庭菜園や農地被害
- 放任果樹の管理
- 地域での注意喚起
などがある。
さらに農林業、建設、森林、自治体関連で働く人なら、鳥獣対策自体が仕事になる可能性もある。
地場経営者には新しい維持需要になる
担い手不足が進めば、これまで住民や農家が自分で行っていた作業を外部化する可能性がある。
例えば、
- 電気柵設置・維持
- 放任果樹伐採
- 緩衝帯整備
- 草刈り
- センサーカメラ設置
- 遠隔監視
- わな通知システム
などである。
人口減少で地域需要が全部なくなるわけではない。
「人が減った結果、これまで無償・自営で行っていた維持作業が有償サービスへ移る」という市場もある。
2050年に113人をそのまま置くことはできない
2025年1月末の実施隊113人が2050年に何人になるかは予測しない。
年齢構成もこの記事では確認できていない。
ただし現在の計画自身が新規隊員確保を必要としている以上、現状維持には継続的な更新が必要である。
2050年に見るべきなのは、
- 実施隊員数
- 年齢構成
- 狩猟免許保有者数
- 新規加入者数
- 退任者数
- 一人あたり担当範囲
- 捕獲・出動件数
- ICTで削減できた見回り時間
- 外部委託や広域連携
になる。
人口減少で必要なのは「捕獲数」より担い手の再生産を見ること
クマを何頭捕獲したかは重要な実績である。
しかし長期的には、その捕獲を次の年もできる人がいるかの方が重要になる。
道路除雪、消防団、農地管理と同じで、鳥獣対策も、
必要な仕事が残る一方、その仕事を担う人数が減る
可能性がある分野だ。
横手の50年を考えるなら、野生動物の数だけでなく、地域側の捕獲・管理能力を追う必要がある。
Sources
yokote-wildlife-damage-plan-r7-r9: 横手市「横手市鳥獣被害防止計画」yokote-hunting-license-support-r7: 横手市「狩猟免許の取得を支援します」yokote-wildlife-prevention-subsidy-r8: 横手市「令和8年度獣害防止対策事業費補助金」yokote-wildlife-results-r6: 横手市「令和6年度主要な施策の成果」yokote-wildlife-budget-r7: 横手市「令和7年度当初予算」yokote-agriculture-committee-opinion-r8: 横手市農業委員会「令和8年度施策に向けた意見書」