横手では人が足りない。

一方で、若い人は横手から出ていく。

この二つは矛盾しているように見える。

しかし、地域の労働市場を「求人の総数」ではなく、進学、職種、企業情報、年齢構成まで分けて見ると、両方が同時に起きても不思議ではない。

横手市は現在の人口ビジョンで、人口減少の要因として婚姻数・出生数の低下による自然減とともに、特に若者世代を中心とした市外への人口流出による社会減を挙げている。

同時に、第2次商工業振興計画では市内企業の慢性的な人手不足を課題としている。

つまり市自身も、「若者が余っているのに企業が採らない」という状況ではなく、「若者が減る一方で企業も人を確保できない」という構造を前提にしている。

2026年3月卒では、求人406人に対して横手管内就職63人

横手市が2026年4月に作成した「就職支援マッチングサイト」構築業務の仕様書には、かなり具体的な数字が書かれている。

令和8年3月卒について、横手管内では新規求人登録事業所が108社、求人数が406人だった。

一方、実際に横手管内への就職が内定している人数は63人だったと市は整理している。

406人分の求人があり、63人が横手管内へ就職した。

ただし、この差をそのまま343人分の「未充足求人」とは扱わない。求人の募集人数と就職内定者数は集計単位が異なり、途中の求人取消し、複数募集、管外からの採用などもあり得るからだ。

それでも、市がこの数字を「求人数と内定者数での乖離が大きい」と明記し、就職支援サイトを作り直す理由にしていることは重要だ。

人手不足は抽象的な話ではなく、若年採用の入口で既に表れている。

若者が出る最初の理由は、仕事だけではなく進学でもある

横手市は同じ仕様書で、市内に大学がないことから、多くの若者が東京圏や仙台圏へ進学し、その後地元へ戻らない状況があるとしている。

18歳前後で市外へ出る人にとって、最初の転出理由は「横手に良い会社がない」だけではない。

大学、専門教育、都市部での学生生活など、市内に存在しない選択肢を使うために転出する。

問題は、その後である。

進学先で就職活動をすると、大学の就職支援、企業説明会、インターン、友人関係、求人媒体なども進学先の労働市場へ接続する。

横手へ戻るには、横手の企業を改めて探し、比較し、応募する必要がある。

市がUIJターン向けの企業情報不足を課題として挙げているのは、この再接続が十分に機能していないという認識でもある。

「求人がある」と「自分がやりたい仕事がある」は別

2026年4月のハローワーク横手の職業別求人・求職バランスを見ると、職種による差は非常に大きい。

一般事務の有効求人倍率は0.24倍だった一方、建設・採掘の職業は4.71倍だった。

同じ「横手では人手不足」という言葉でも、一般事務を希望する人と建設技術者では見えている労働市場が違う。

求人総数が多くても、自分が希望する職種の求人が少なければ、市外へ出る合理性は残る。

逆に、建設、設備、介護など求人倍率が高い分野では、採用されやすくても、仕事内容、給与、休日、身体負担、資格、将来性など別の条件で応募者が集まらないこともあり得る。

このため、人手不足を考えるときは「人がいない」だけではなく、少なくとも次を分ける必要がある。

  • どの職種で人が足りないのか
  • どの年齢層が足りないのか
  • どの技能が足りないのか
  • 求職者が希望する条件と何がずれているのか
  • 市外へ出た人が戻るだけの転職先があるのか

人手不足は、地域経済が成長している証拠とは限らない

企業の求人が多い理由は一つではない。

売上が急増して人を増やしたい場合もあれば、退職者の補充ができず求人を出し続けている場合もある。

横手市では2020年時点の就業者44,009人のうち、60歳以上が14,890人、33.8%を占めていた。

この年齢構成を考えると、今後の人手不足には既存の働き手の退職が大きく関わる可能性がある。

若者が流出し、高齢の就業者が退職するなら、地域内の需要が増えていなくても採用難は強くなり得る。

したがって、「求人倍率が高いから横手の経済は成長している」とは言えない。

反対に、「人口が減るから仕事も全部なくなる」とも言えない。

需要と労働供給が別の速度で減るからだ。

地元就職者が見るべきなのは、最初の会社より二社目があるか

20代で横手の会社へ就職するとき、最初の会社に採用されるかだけを見ると判断を誤りやすい。

30歳、35歳、40歳で転職したくなる可能性がある。

そのとき同じ職種の会社が横手・県南に何社あるかが重要になる。

例えば、ある会社でしか使わない社内技能を10年間積んだ場合、その会社を離れた瞬間に選択肢が急に狭くなる可能性がある。

一方、設備保全、施工管理、看護、介護、電気、機械、品質管理、会計、ITなど、複数企業・複数地域で使える技能なら、市内の会社が減っても転職先を広げやすい。

このサイトでは「横手に残るなら地域専用技能を避けるべき」とまでは言わない。

家業承継や地域固有業務では、その技能自体に価値がある場合もある。

ただし、地元就職のリスクを測るなら、初任給と同時に技能の可搬性を見る必要がある。

2030年までに見るもの

2026年に25歳なら2030年には29歳になる。

この時期は、最初の会社に残るか、転職するか、専門性を固めるかを判断しやすい。

見るべきなのは、求人総数より次の変数になる。

  • 職種別求人倍率
  • 正社員求人の給与帯
  • 市内・県南の同職種企業数
  • 新卒採用数と中途採用数
  • 市外通勤圏の求人
  • 企業の採用ページ・情報公開状況

横手市自身が企業情報の不足を課題としているため、求人情報の見え方が改善するかも観測対象になる。

2040年には「若手不足」が組織の形を変える可能性がある

2026年に25歳の人は2040年に39歳になる。

現在50代・60代の就業者の多くは、その間に退職時期を迎える。

採用が補充に追いつかなければ、企業は次のどれかを選ぶ必要がある。

  • 少ない人数で同じ仕事をする
  • 自動化・省人化する
  • 外注する
  • 事業や拠点を統合する
  • 営業時間やサービス範囲を縮める
  • 外国人材や市外人材へ採用範囲を広げる

どれになるかは業種で違う。

若手社員にとっては、管理職や中核人材になる時期が早まる可能性がある一方、部下が補充されず仕事量だけ増える可能性もある。

「若いから将来は偉くなれる」ではなく、組織がどのように人手不足へ対応している会社かを見る必要がある。

2050年以降は「採用難」から「事業を残すか」の問題へ移る

2026年に25歳なら2050年に49歳になる。

人口と労働力の減少が公的推計に近い形で進んだ場合、一部の会社では採用人数を増やすだけでは解決できなくなる可能性がある。

顧客も働き手も減るためだ。

そのときは、会社単位ではなく事業単位で、残す、統合する、他社へ譲る、機械化する、といった判断が増える可能性がある。

これは事業承継の記事と接続する。

若い社員が50歳になる頃には、「人を採る会社に入る」という話から、「自分が事業を引き継ぐ側になる」という話へ変わっているかもしれない。

地場経営者にとって、求人を出すだけでは足りない

横手市は就職支援サイト再構築の理由として、市内企業の情報が求職者へ十分届いていないことも挙げている。

自社採用ページを持たない企業、大手求人媒体へ掲載していない企業があるため、UIJターン希望者が企業の魅力や働き方を知りにくいという問題だ。

これは人口減少とは別に改善できる。

一方で、情報発信を改善すれば406人の求人がすべて埋まるとも限らない。

職種、賃金、休日、勤務地、キャリア、住宅、配偶者の仕事など、地元回帰の条件は複数あるからだ。

企業側が観測すべきなのは応募数だけではない。

  • どの学校・地域から応募が来るか
  • 内定辞退理由
  • 3年以内離職
  • 中途採用者の前職地域
  • 求人職種別の充足期間
  • 採用者の通勤圏

これを取らなければ、「若者がいない」で原因分析が止まる。

人手不足と若者流出は、同じ問題の別の面として見た方がいい

横手で求人が余り、若者が出ていくことは同時に起こり得る。

進学で一度地域外へ出る。戻るときに職種が合わない。企業情報が見つからない。市外の方が選択肢が厚い。地域企業では退職補充の求人が増える。

これらが重なれば、求人総数と若者の定着は逆方向に動く。

地元就職を考える人が見るべきなのは、「横手には仕事があるか」ではない。

自分がやる仕事は何社にあり、その技能を持ったまま30年後も選び直せるか。

この問いの方が長期の判断には使いやすい。

現時点で分からないこと

求人406人と横手管内就職内定63人は、同じ母集団を単純に差し引いて未充足数を計算できる統計ではない。

また、若者の転出理由を賃金だけに帰属させる資料はこの記事では確認していない。

市内に大学がないこと、職種ミスマッチ、企業情報不足は確認できるが、それぞれが若者流出へ何割寄与しているかは分からない。

今後、年齢別社会増減、若年者アンケート、求人給与帯、県外進学者の帰還率などを追加で確認する。

Sources

  • yokote-population-vision: 横手市「横手市人口ビジョン」
  • yokote-commerce-industry-plan-r8-r12: 横手市「第2次横手市商工業振興計画」
  • yokote-job-matching-site-spec-r8: 横手市「就職支援マッチングサイト構築業務委託仕様書」
  • akita-labor-balance-yokote-r8-04: 秋田労働局「令和8年4月の職業別求人・求職バランスシート(ハローワーク横手)」