横手の企業がDXした事例を集めると、AI、IoT、クラウド、ロボットといった導入技術は見つかる。

しかし人口が減り、人を採りにくくなる地域で本当に知りたいのは、

その技術を入れたことで、何人・何時間分の仕事が戻ったのか

である。

「AIを導入した」「クラウド化した」「全自動化した」という導入実績と、省人化の実績は同じではない。

公開されている横手の企業事例を確認すると、効果の測り方も揃っていない。

  • 1日の作業時間が出ている事例
  • 1個あたりの処理秒数が出ている事例
  • 作業量・残業が減ったことだけ確認できる事例
  • 会社全体の長期業績は出ているが、個別DXの寄与を分離できない事例

がある。

これらを全部「DXで○時間削減」と同じ表に入れると、数字を作りすぎる。

この記事では、公開値の単位を壊さずに比較する。

カネキは、日単位で業務時間の変化が見える

横手市に本社を置く楽器の店カネキでは、秋田店の開設後、横手本社と秋田店の販売・経理情報を手書き中心で管理していた。

横手本社では、同じ品目や価格を何度も手書きし、伝票を集約して台帳と突き合わせ、記帳する作業が発生していた。

クラウド型の販売管理システム等へ移行した結果、公開事例では、1日の勤務時間のほとんどを占めていた手書き関連業務が約1〜2時間に収まったとされている。

さらに現場からは「7分の1くらいの仕事量」、会社側からは「およそ1人分の事務作業量を省力化」「経理事務を5分の1まで圧縮」という評価も出ている。

横手の公開DX事例の中では、比較的はっきり省人化の大きさが見える例である。

ただし、ここから年間削減時間を出すことはしない。

「勤務時間のほとんど」から年間何時間かは計算しない

仮に1日8時間勤務だと置けば、1〜2時間への縮小から大きな削減時間を計算できる。

しかし公開事例には、対象者の正確な勤務時間、導入前に対象業務へ使っていた正確な時間、年間稼働日数が揃っていない。

「勤務時間のほとんど」という表現を勝手に7時間や8時間へ変換すると、一次資料にない数字になる。

そのためcanonicalな観測値として残すのは、

  • 導入前: 1日の勤務時間のほとんど
  • 導入後: 約1〜2時間/日
  • 現場評価: 約7分の1
  • 会社評価: 約1人分の事務作業量を省力化
  • 経理事務: 約5分の1

までにする。

年間削減人時は、正確な基準値が取れた場合に初めて計算する。

「1人分省力化」と「1人減らした」も違う

カネキの事例には、およそ1人分の事務作業量を省力化したという説明がある。

これは重要な値だが、

従業員を1人削減した

という意味にはしない。

省力化で空いた時間は、販売、顧客対応、修理、教室、データ活用など別業務へ回せる。

人手不足地域で見るなら、むしろ「同じ人数で別の不足業務へ回れるようになったか」の方が重要な場合がある。

省人化を人員削減だけで測らない。

みずほライスは「1個あたり」の処理時間を比較できる

横手市でシイタケ等を生産するみずほライスでは、AIカメラを使ったシイタケ選果機を開発・導入している。

公開事例では、初めて選別作業をするスタッフは、シイタケ1個を判別するのに4〜5秒かかっていた。

AI選果機は、良品か良品以外かを1秒で判別するとされている。

判定精度は約84%で、約2年間選別作業に従事したスタッフと同程度と説明されている。

ここでは同じ「1個を判別する」という作業について、

方法処理時間
初心者スタッフ4〜5秒/個
AI選果機1秒/個

という比較ができる。

カネキとは違い、日単位ではなく1個単位の測定である。

1個4〜5秒から1秒でも、年間人時はまだ出せない

1個あたり3〜4秒短くなるなら、大量処理時には大きな差になる可能性がある。

しかし年間で何時間戻るかを計算するには、少なくとも、

  • 1日の選別個数
  • 年間の選別日数
  • AI選果機の実稼働率
  • 手作業との併用割合
  • 再判定の件数

が必要になる。

例えば年間100万個処理するのか10万個なのかで、省人化の総量は10倍違う。

公開事例にない処理個数を仮定しない。

したがって、みずほライスについて現時点で言えるのは、

初心者が4〜5秒/個だった判別を、AI選果機は1秒/個で処理できる

までである。

年間削減時間は未確認とする。

速度だけでなく、熟練者への依存を減らす効果がある

みずほライスの選果機で重要なのは、処理速度だけではない。

シイタケ選別には経験が必要で、初心者が迷えばベテランへ確認するためさらに時間がかかる。

AI選果機を使えば、経験が浅いスタッフでも均一な基準で作業しやすくなるとされている。

人口減少地域では、

  • 作業時間を短くする
  • 熟練者しかできない作業を減らす
  • 新人が戦力になるまでの期間を縮める

は別々の省人化効果になる。

単純な時間だけではなく、技能制約をどこまで外せたかも追う。

IoT側は「適切な人員配置」が確認できるが、人時はまだない

みずほライスでは、栽培ハウスに温度・湿度・二酸化炭素濃度等のセンサーやネットワークカメラを設置している。

データに基づいて収穫時期・収穫量を予測し、適切な人員配置ができるようになったとされている。

これは人手不足への対応として重要だ。

しかし、

  • 巡回が1日何回減ったか
  • 何人配置から何人配置になったか
  • 収穫時の応援人員が何人減ったか

は公開値として確認できない。

したがって「IoTで年間○時間削減」とは書かない。

また、1菌床あたり売上高が2倍になったという結果も紹介されているが、栽培条件の改善等を含むため、IoTだけの因果効果へ分解しない。

大橋鉄工秋田は全自動化まで進んだが、削減時間は公開されていない

横手市で自動車部品を製造する大橋鉄工秋田では、カチオン塗装工程へAI画像検査を導入し、検査後の部品取り外しや箱詰めをロボット化している。

公開事例では、この工程の全自動化を実現したとされる。

導入後は、

  • 検査結果の安定性向上
  • 検査プレッシャーの軽減
  • 従業員の作業量削減
  • 残業時間削減

に役立ったと説明されている。

ただし、残業が月20時間から5時間になった、といった定量値は公開されていない。

そのため、この事例を「年間○時間省人化」とすることはできない。

むしろ、定量値がないこと自体をデータの状態として残す。

自動化は、導入直後から完成形になるとは限らない

大橋鉄工秋田の事例では、安定した検査環境を構築するため、本社と連携して約5か月の検証を行っている。

また量産開始当初は、良品を不良と判定する過検出が一定数発生し、再検査が必要だったとされる。

DXの効果を測るとき、導入後の良い状態だけを拾うと、導入コストを落とす。

本当は、

  • 検証期間
  • 学習データ作成
  • 再検査
  • 操作教育
  • 保守

に使った人時も見たい。

「導入後に年間1000時間削減」できたとしても、立ち上げに2000時間かかったなら、投資回収を見るにはその差が必要になる。

現時点では公開値がないため計算しないが、今後の観測項目として残す。

日の丸醸造は「四重帳簿」を消したが、個別時間は出ていない

横手市の日の丸醸造では、製造部門で、もろみ担当、分析担当、麹担当がそれぞれ記録簿を作成し、さらに杜氏が書き写す四重帳簿状態だった。

これを、各部門がクラウド上の製造記録簿へ直接入力する方式へ変更した。

結果として、情報共有、マニュアル化、在宅勤務対応が進み、複数部門を理解する従業員が増えて、人手が足りない部門へ応援を出しやすくなったとされている。

非常に分かりやすい重複作業の削減例だが、

  • 四重帳簿に1日何時間かかっていたか
  • クラウド化後に何時間になったか

は公開されていない。

したがって、帳簿が4つから1つになったから作業時間が4分の1、とも置かない。

12年間で売上1.5倍でも「DXで1.5倍」とはしない

日の丸醸造では、公開事例時点までの12年間で、従業員数が減少する一方、売上高は約1.5倍になったとされている。

また5年前にはほとんどなかった応募が、公開時点では月1〜2件あるという変化も紹介されている。

これは会社全体の結果として重要である。

しかし会社側自身が、さまざまな取り組みの積み重ねで効果測定しづらいとしている。

業務改善、ホームページ、情報発信、人材育成、従業員の努力などが同時に存在する。

そのため、

DXによって売上が1.5倍になった

クラウド化によって応募が月1〜2件へ増えた

とは因果関係を固定しない。

会社全体の結果と、個別施策の効果を分ける。

同じ「DX成果」でも単位が違う

今回の4社を並べると、公開データの違いが見える。

企業対象業務確認できる効果単位年間人時へ換算できるか
楽器の店カネキ販売管理・経理手書き等が約1〜2時間/日、約1人分の事務作業量省力化等時間/日・作業量正確な導入前時間・稼働日が不足
みずほライスシイタケ選果初心者4〜5秒/個 → AI 1秒/個秒/個年間処理個数・稼働日が不足
大橋鉄工秋田検査・取り外し・箱詰め作業量・残業時間を削減定性的時間値が未公表
日の丸醸造製造記録・情報共有四重帳簿解消、部門横断配置定性的時間値が未公表

この表で空欄を推測で埋めない。

DX事例を比較するときに必要なのは、数字の多さより、何を単位に測った数字なのかを保持することである。

「何時間戻したか」を測るなら、分母を先に決める

地場企業が自社のDX効果を測る場合は、導入前に次を取っておくと比較しやすい。

反復事務

  • 1件あたり処理時間
  • 1日あたり件数
  • 1日あたり合計人時
  • 転記・再作業件数

現場作業

  • 1件・1個・1工程あたり時間
  • 1日あたり処理量
  • 必要人数
  • 移動回数
  • 待ち時間

品質・検査

  • 検査時間
  • 不良見逃し
  • 過検出
  • 再検査時間
  • 熟練者への確認回数

管理業務

  • 日報作成時間
  • 集計時間
  • 承認待ち時間
  • 問い合わせ回数

導入後に同じ項目を測れば、年間人時へ換算する条件が揃う。

導入後だけ測って「便利になった」と評価するより、導入前のbaselineを先に取ることが重要になる。

年間削減人時は計算条件を公開する

例えば、ある作業が、

  • 導入前5分/件
  • 導入後2分/件
  • 1日100件
  • 年間240日

だったとする。

この場合は、3分 × 100件 × 240日という条件から年間削減時間を計算できる。

重要なのは、計算結果だけではなく、

  • 1件あたり差
  • 1日件数
  • 稼働日数

を残すことである。

処理件数が翌年変わっても再計算できる。

逆に、今回の公開事例のように分母がない場合は、年間値を作らない。

戻った時間をどこへ使ったかも成果になる

人口減少地域では、省人化の目的が人員削減とは限らない。

例えば、

  • 経理から顧客対応へ
  • 熟練者の選別から栽培改善へ
  • 検査から設備改善へ
  • 重複記録から他部門応援へ

時間を移せれば、人を採れない会社でも業務を維持しやすくなる。

日の丸醸造で部門横断の応援がしやすくなったという事例は、この考え方に近い。

カネキでも省力化後、経理以外の業務へ取り組める体制が示されている。

今後は削減時間だけでなく、その時間の再配分先も観測したい。

地場企業DXの記事は「ツール紹介」から「業務単位」へ変える

地域DXの記事は、

○○社がAIを導入しました

だけでは後から比較しにくい。

代わりに、

○○社の検査工程で、導入前は何人・何分、導入後は何人・何分

という業務単位へ寄せる。

ツール名は数年で変わる。

しかし、

  • 経理
  • 点検
  • 配車
  • 日報
  • 選別
  • 検査
  • 見積
  • 請求

という業務は比較し続けられる。

横手の将来を見るなら、AI導入企業数より、地域の仕事1件あたりに必要な人時がどう変わったかを追う方が有用である。

地図側は事業所位置、DX側は業務効果を持つ

企業DXも地図へ載せることはできる。

どの地域に製造、農業、小売等のDX事例があるかを可視化すれば地域産業の分布を見られる。

ただしDX観測側へ緯度経度を重複入力しない。

  • 地図側: 事業所位置、地域、産業集積
  • DX観測側: 対象業務、技術、導入状態、導入前後値、費用、結果

に分ける。

現時点では「横手企業は年間何万時間省人化した」とは言えない

公開事例から、具体的な省人化は確認できる。

特にカネキでは日単位の大きな業務縮小、みずほライスでは1個あたりの処理時間短縮が示されている。

大橋鉄工秋田では工程全自動化と作業量・残業削減、日の丸醸造では重複記録解消と人員配置改善が確認できる。

しかし企業ごとの測定単位が違い、年間人時へ換算する分母も揃っていない。

したがって現時点では、

横手のDXで年間○万時間削減された

という地域集計は作らない。

まず企業ごと、業務ごとに導入前後を同じ単位で蓄積する。

事例が増えれば、製造、事務、農業、建設など分野別に「どの業務がどれだけ省人化しやすいか」を比較できる。

その時点で初めて、人手不足に対するDXの実効性を地域単位で評価する。

Sources

  • akita-dex-kaneki-dx: 秋田県 AKITA DeX「株式会社楽器の店カネキ 社内のITインフラを整備して効率化を促進」
  • akita-dex-mizuho-rice-dx: 秋田県 AKITA DeX「株式会社みずほライス データを活用し高品質・安定供給可能なシイタケ生産を実現」
  • akita-dex-ohashi-tekkou-akita-dx: 秋田県 AKITA DeX「大橋鉄工秋田株式会社 AI画像検査とロボットの導入により製造工程を全自動化」
  • akita-dex-hinomaru-dx: 秋田県 AKITA DeX「日の丸醸造株式会社 身近なデジタルツールを活用した『自分たちでできるデジタル化』」