横手市の人口が減るなら、市内だけを顧客にする事業は市場縮小の影響を受けやすい。
そこで「県南まで商圏を広げればよい」という考え方が出てくる。
横手から見れば、大仙、湯沢、美郷、羽後などを含む県南は、生活・通勤・取引を考える自然な広域単位である。
しかし実際の物流や企業間取引を見ると、県南は一つの重要な範囲ではあっても、一律の境界にはなっていない。
横手を起点にして、秋田市、北上、一関、全国、海外まで接続する仕事もある。
一方、商圏を遠くへ広げれば、その分だけ移動や物流の負担も増える。
「どこまで届くか」と「どこまで採算が合うか」は別に考える必要がある。
横手本社の物流企業は、すでに県南だけで完結していない
横手市に本社を置くヨコウンの拠点を見ると、秋田県南地区には横手の複数拠点と美郷物流センターがある。
それだけではない。
秋田中央地区には秋田市の複数拠点、岩手県には北上営業所と一関営業所、宮城県には仙台オフィスがある。
これは「横手の物流会社だから横手・県南だけを扱う」という構造ではない。
ただし、拠点がある場所と顧客売上の分布は同じではない。
北上営業所があるから売上の何割が岩手県か、という数字はこの情報だけでは分からない。
拠点網は物流能力として見る。
食品物流と工業製品物流でも範囲が違う
ヨコウンの食品物流は、横手営業所、秋田営業所、美郷物流センターが対象になっている。
常温・冷蔵・冷凍の3温度帯へ対応し、食品物流センター運営やピッキングも行う。
一方、工業製品物流の対象営業所は、横手営業所、パクトセンター、秋田南営業所、北上営業所、一関営業所である。
同じ会社の物流でも、扱う品目によって拠点の組み合わせが違う。
そのため「横手企業の商圏は半径○km」と一つの円で表すのは粗い。
食品、工業製品、建設、IT、介護、修繕では、仕事が届く距離が違う。
横手駅前から全国へ貨物を送る経路もある
ヨコウンのJR貨物輸送は、横手駅前営業所を対象営業所として、全国各地へのドアtoドア輸送を案内している。
重量物から精密機器まで扱うとしている。
路線貨物輸送も、小ロット貨物を混載する共同配送によって全国各地へ届けるサービスを持つ。
つまり横手に生産拠点があることは、販売先も県南に限定されることを意味しない。
商品そのものが輸送可能なら、全国市場へ接続する物流経路は存在する。
ただし「全国へ配送できる」と「全国で十分に売れる」は別である。
物流能力だけでは需要は作れない。
国際物流までつながるが、横手企業の輸出量は別に確認する
ヨコウンは国際物流として、輸出入手続き、通関、輸送手段の選定、海外拠点への配送までを扱うとしている。
対象営業所には秋田営業所、秋田南営業所、パクトセンターが含まれる。
横手の企業でも、林泉堂のように海外への輸出実績を持つ企業がある。
ただし、物流会社が国際物流サービスを提供していることから、横手市全体の輸出量が大きいとは言えない。
企業別の輸出実績と、物流サービス側の対応能力を別々に追う必要がある。
ITは荷物を運ばなくても県外売上を取れる
商圏の広がり方は物流だけではない。
渡敬情報システムは2022年時点で、売上高では県外の仕事が半分以上を占めると説明していた。
関東圏・関西圏を中心とする全国の顧客から仕事を受けている。
ソフトウェアやIT支援は、物理的な貨物を毎日運ぶ事業とは距離制約が違う。
一方、株式会社渡敬は主要販売先を秋田県内の官公庁・民間事業所としており、横手、大仙、秋田、大館へ営業拠点を置いている。
同じ企業グループに近い名前の会社でも、事業内容が違えば市場の地理も違う。
「県南一体の市場」はあるが、それだけではない
県南という単位が不要になるわけではない。
横手市だけでは人口・企業数が減る中で、近隣市町村まで見ることには意味がある。
例えば現場訪問を伴う仕事では、横手から日帰りで回れる大仙・湯沢・美郷・羽後等は実務上扱いやすい可能性がある。
採用でも、横手市民だけではなく周辺自治体から通勤する人を含めて考える必要がある。
しかしB2Bの物流やIT受注では、北上・一関、秋田市、全国まで既に接続している事例がある。
したがって、今後このサイトでは「県南商圏」を一つの最終境界として固定しない。
業務ごとに、
- 市内
- 県南
- 秋田県内
- 隣県
- 東北
- 全国
- 海外
のどこまで実績があるかを見る。
商圏を広げるほど、移動負担は増え得る
市場を広げる話は、売上だけを見ると魅力的に見える。
しかし現場へ行く仕事では距離がそのままコストになる。
例えば、
- 営業車の走行距離
- トラックの走行距離
- 運転時間
- 燃料
- 高速道路料金
- ドライバー数
- 配送頻度
- 在庫
- 中継倉庫
- 空車回送
が増える可能性がある。
横手市内で1日5件回れる仕事が、県境を越えると1日2件になるなら、売上単価が高くても人時あたり採算は悪化することがある。
反対に、共同配送、鉄道貨物、拠点分散、遠隔対応によって距離負担を下げられる仕事もある。
そのため「商圏拡大=成長」とは置かない。
人口減少下で見るべきなのは、市場半径ではなく業務別の到達構造
横手市人口が減るとき、会社が取れる選択肢は一つではない。
地域内市場で競合退出後の需要を受ける会社もある。
県南へ営業範囲を広げる会社もある。
秋田県全域を担当する会社もある。
北上・一関等の隣県と産業物流をつなぐ会社もある。
全国へ商品を出荷する会社、県外からIT業務を受託する会社、輸出する会社もある。
これらを一つの「商圏拡大」という言葉でまとめない。
今後は、実際の受注地域や配送地域が確認できる企業を増やし、可能なら、
- 地域別売上
- 配送件数
- 走行距離
- 物流費
- 1件あたり人時
まで接続する。
横手に残って事業を続けられるかを考えるとき、見るべきなのは「県南まで広げれば顧客が増えるか」だけではない。
その仕事がどこまで届き、そこまで届けるために何時間・何人・いくら必要なのかまで見る必要がある。